冬の但馬路・のらり旅 ―第4夜―

≪文学に酔いしれ、伝統工芸に心奪われる≫


13時25分、城崎着。家を出たのが6時半だから、丸々7時間。……遠いわ。カニ食って温泉入るだけの為に7時間。……遠いって。遠過ぎるって。
駅のロビーに、城崎温泉観光協会発行の『城崎かに王国マップ』というパンフレット。これには温泉街・商店街の案内図や店によって割引・特典が得られるチケットが付いてますので、是非お取り下さい(但し、有効期限は3月末まで)。
駅前には湯飲場があり、飲料用の温泉が沸いています。柄杓で少し口に含んでみると、ほのかにしょっぱい。低ナトリウム泉です。但し、あまり飲み過ぎないように。砒素や鉛などの有毒物質も含んでますから。自殺願望のある方、どうぞガブ飲みして下さい――ウソです。真に受けないで下さい。
駅舎のすぐ隣には『さとの湯』という外湯。なれど、こちらは下調べで毎月第2・4木曜日が定休日という事がわかってるから、明日の出発前のお楽しみという事で。その代わり、ここには足湯がありますので、存分に暖まってって下さい。

画像商店街(駅通り)を少し歩き、店先狭しと並んでいるカニに引き寄せられる事もなく、脇道に入る。少し行くと、左手に白壁長屋風の『城崎町文芸館』が見えてきます。文芸館なのに足湯があります。だけじゃなく、手湯もあります。手足両方が暖められるのはここだけです。
城崎といえば志賀直哉ってくらいだから、ここで文学に勤しむ事にしましょう。入場料400円。この先にある『城崎麦わら細工伝承館』との共通券は500円。毎月最終水曜日が休館日となっています。
ここに来たもう一つの理由は、『きのくにパスポート』を入手する為。一冊200円。この一冊で、土産品店や飲食店などの特典サービスが受けられます。いわゆる町おこし・観光客誘致の起爆剤という訳ですね。観光協会事務局も併設している文芸館受付で〝入国手続き〟してから1年間有効。「何度でも城崎に来て下さいネ」という訳。
でも、このパスポートを発行しているのは、ここだけ。町おこし・観光客誘致が目的なら、駅とか観光案内所とかでも扱えばいいのに。
さて、前々から「城崎と言えば志賀直哉」とうるさく言ってますが、何故そうなのを御説明申し上げねば。志賀直哉の代表作といえば『城の崎にて』ですが、それを書いた経緯について。
直哉20歳の夏、同じ白樺派の作家・里見弴と一緒に遊びに出たところ、山手線の電車にはねられて重傷(ヲイ!)、その傷を癒す為に城崎温泉を訪れた。九死に一生を得た彼が、この静かな温泉街での小さな出来事、小動物の死を見つめ、自らの生と重ね合わせる事で書き上げたのが名作『城の崎にて』です(なぁんてエラそうに語ってるけど、讃岐屋、一度も読んだ事がありません)。
その後、温泉・町の風情・人情・食べ物・土産物に至るまで城崎に惚れ込んだ直哉は、生涯に十数度も城崎に逗留しています。という事は、街のそこここに志賀直哉ゆかりの場所というものも、数多く点在する訳です。
どうです。これで志賀直哉と城崎温泉の、切っても切れない縁というものの一端が垣間見えたでしょう。
……え? 見えない? そうですか? 明日、お医者さんへ行って下さいね。
で、〝志賀直哉あるところ白樺派あり〟といった訳で、島崎藤村、有島武郎、柳田国男、与謝野鉄幹・晶子夫妻などなど、白樺派の名だたる作家が、相次いで城崎を訪れている訳です(そう云や柳田国男は、但馬の福崎生まれ。播但線沿線の街でしたね)。
そして、他にもびっくりするような人たちが、ここに逗留していたのです。
歴史小説の大家・司馬遼太郎、放浪の画家・山下清、宮本武蔵でおなじみの沢庵和尚、そしてそして幕末維新の英傑・桂小五郎。
僕、桂小五郎が城崎に関係してるなんて全然知りませんでした。池田屋事件の後、京都を何とか脱出した小五郎先生、一時は同じ但馬の出石という町に身を潜めていたが、そこにも幕府の追及の手が迫っていると知るや、何食わぬ顔で城崎に潜伏していたんだそうです。当時泊まっていた旅館(つたや旅館)も現存しており、墨跡もこの文芸館に展示されてます。ナルホド、皿そばばかり食ってた訳じゃないって事だ。

文芸館を後にして、大谿川(「おおたにがわ」と読みます)沿いに温泉街の奥の方へ進むと、すぐに王橋という大きな橋にぶつかります。この橋を渡ると、城崎温泉で一番大きい外湯『一の湯』があります。橋の袂には湯飲場も設けられてます。が、この橋を渡らずに、そのまま川沿いの道を進みます。程なく、旧家の蔵のような建物が見えてきます。それが『城崎麦わら細工伝承館』です。入館料300円。共通券だと単純計算で200円のお得。こちらも毎月最終水曜日が休館日。
画像城崎地方には、江戸時代・享保年間から今日に至るまで、色染めした麦わらを帯状に開いたものを、玩具や箱物に貼り合わせた〝麦わら細工〟と呼ばれる民芸品があるそうです。
そんな事も知らなかった僕、〝麦わら細工〟と聞いて「どうせわら靴や麦わら帽子みたいに、藁で編んだものなんでしょ」くらいにしか思ってませんでした。たいして興味もなかったけど、共通券買っちゃったし、サッと見てサッと出てこよう程度にしか考えてなかったんですが、館内に入った途端にガツンとヤラレちゃいました。
ち、緻密だ……。びっくりするくらい緻密だ。
紋様のひとつひとつ、墨引きしたような細い線の一本一本が、すべて色鮮やかに染められた麦わらを貼り合わせて作られているのです。土台の木地だとばかり思っていたものまで、きっちり麦わらが貼られているのです。
館内に流れている製作過程のビデオを見るまでもなく、その繊細な技にヤラレにヤラレまくって、チラッと寄るつもりが随分と長居をしてしまいました。展示品の数は少ないものの、すっかり魅了されてしまって、「うお~ッ! もっと見てェ~ッ!!」と思ってしまった次第であります。
かのシーボルトすら好んでコレクションしたという麦わら細工。コレを見る為だけでも、城崎を訪れる価値あり!と公言しておきますよ。
「どうせなら自分でもやってみたい」と思われた方、先に紹介した文芸館で製作体験も出来ます。
日本の伝統工芸、ビューティフルです! ファンタスティックです!!


(久米明さん風に)アメイジング城崎であ~る!

今回、こんなシメ方でどうでしょう?

この記事へのコメント

りーまんとらべらー 京都の若ダンさん風
2005年02月02日 21:58
よろしおすなぁ~。
きのさき号にあの人らが乗ってはったさかい、すっかり城崎温泉に行ってはったと勘違いしてましたわ。あの人らが行かれたのは湯村温泉なんですなぁ。城崎は単に乗り換えしただけ。
残念でしたわー。
讃岐屋
2005年02月03日 03:00
湯村温泉へは、城崎の手前・八鹿か、少し先の浜坂からバスで参ります。大泉「酔う」さんも、バスで行けば、ヘリに酔って失態を演じる事もなかったろうに。
あ。京都へ向かった時は、浜坂までバス移動でしたね。

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