出雲路を駈け抜けて~一畑電車百年ものがたり

画像松江市中心部に位置する松江しんじ湖温泉から宍道湖北岸を巡り、八百萬の神々おわします出雲大社および出雲市までを結ぶ、島根県内唯一の私鉄・一畑電車。
沿線住民から「バタデン」と呼ばれ、親しまれているこの一畑電車を舞台に描かれた映画『RAILWAYS~49歳で電車の運転士になった男の物語』の公開を記念して、現在、出雲大社の隣にある島根県立古代出雲歴史博物館において、特別展『BATADEN~一畑電車百年ものがたり』が開催されています。

特別展では、沿線住民の貴重な足として、また出雲大社へのアプローチとして、約100年にわたって親しまれてきた一畑電車の誕生からその隆盛、そして現在に至るまでの歴史や、一畑電車の代名詞とも云える日本最古の電車・デハニ50形の生い立ちなどを、つぶさに紹介しています。
会期は7月4日まで。入場料700円(常設展との共通券は1,000円)。


一畑電車の前身である「一畑軽便鉄道」が設立されたのは明治45(1912)年。その2年後の大正3(1914)年、営業を開始します。
今でこそ、出雲大社への参詣客や観光客を輸送する貴重な公共交通機関となっている一畑電車ですが、意外な事に、出雲大社の門前に乗り入れたのは、開業から15年以上も経った昭和5(1930)年になっての事でした。
ずっと昔から、松江や出雲市と出雲大社とを結んでいた、出雲大社への参詣客の為に走っていた鉄道というイメージがあったんですが、実際はそうじゃなかったんですねぇ。
それじゃあ、いったいどこを目的地として走っていたのかというと、出雲のもう一つの聖地・一畑薬師(一畑寺)だったのです。
当時、平田にある一畑薬師へ向かうには、陸路をひたすら行くか、船で宍道湖を渡るしかなかったのです。そんな一畑寺から「参拝客輸送の便宜を図って欲しい」という要請を受け、出雲今市(現在の電鉄出雲市)-雲州平田間で開業。その翌年には、平田から一畑薬師の門前である一畑坂下まで延伸されたのでした。
(そういった経緯もあってか、一畑寺は、現在も一畑グループの主要株主となっています)

大正14(1925)年、社名を「一畑軽便鉄道」から「一畑電気鉄道」に改称し、全線を電化する計画を発表。
当時、国鉄ですらSL全盛の時代、言っちゃあ悪いけど、山陰の片田舎を走るローカル私鉄が「これからは電気の力で機関車を走らせる時代が来る!」と言い切って、全線電化へ舵を切るというのは……「先見の明」と言えばカッコいいけど、世間からは無謀としか映らなかったでしょうね。
昭和2(1927)年、出雲今市-一畑坂下間を電化開業するとともに、翌年には小境灘(現在の一畑口)から松江市内の北松江(現在の松江しんじ湖温泉)まで延伸。これにより、それまで船で往来するしかなかった松江-小境灘間が鉄道で結ばれ、松江市から宍道湖北岸を巡って出雲市に至る現在のルート(北松江線)が確立されました。
そして、前述のとおり、昭和5年に川跡-大社神門(現在の出雲大社前)間が開通して(大社線)、現在の鉄道網が完成したのです。
デハニ50形がデビューしたのも、ちょうどこの頃です。

平成18(2006)年、会社合理化策の一環として、「一畑電気鉄道」は持株会社となり、鉄道事業は「一畑電車」にすべて引き継がれ、現在に至っています。


画像そういった歴史も踏まえつつ、今回の特別展を見てまいりましょう。
入場券も、よく見る普通の半券付き短冊形ではなく、キップを模しているというのが、また凝ってますよねぇ。
日付もスタンプじゃなくてパンチ穴で表示されてるってのも、古き良き時代と申しますか、昭和の馨りが漂っていて、実にいい雰囲気じゃないですか。
そして、入場時は半券を切ってもらうのではなく、駅員の恰好をした係員さんに入鋏してもらうのです。
この辺の凝りようがまたワクワクさせてくれる訳ですよ。
普段なら撮影禁止となる展示室内も、この特別展に限っては、いくらでも撮影してOK(ただしフラッシュ禁止)というのも嬉しい話です。

中に入るとまず、会社設立趣意書や認可証などの貴重な文書資料に続いて、軽便鉄道時代の用地取得見取図や駅の設計図(駅舎であったり駅用地の平面図であったり)、使用された車両の設計図などの図面(青写真)が迎えてくれます。
中には、廃線となった広瀬線(荒島-出雲広瀬)や立久恵線(出雲市-出雲須佐)の図面や、往時の写真パネルなど、かつての隆盛を彷彿とさせる貴重な資料も展示されています。
これらの図面、実に緻密です――実際に使われてた図面ですから、当たり前っちゃあ当たり前ですけど。
何が凄いって、100年も前の図面が今なお残されてるってのが凄いです。古いからといって、破棄される事も経年劣化でボロボロになる事もなく、廃線となった区間のものまで、捨てられずにキッチリと残されている。まして、途中に太平洋戦争をはさんでますからね。空襲で焼失する事もなく、現在なお綺麗な形で残されてるという事実に、資料管理をされている方々の苦労には、ホントに頭が下がります。
まぁ、中にはコピーも含まれているんでしょうが、原本が綺麗な形で残されていない事には、コピーすら起こせない訳ですから。
画像そして、一際目を惹くのが、この軌道自転車です。
名前が表すとおり、レール上を走れるように車輪を改造した自転車を2台くっ付けたような構造をしていて、線路のメンテナンスに当たる保線員の移動や巡回用に使われています。
映画『RAILWAYS』では、中井貴一さん扮するところの主人公・肇が「一度乗ってみたかった」と、嬉々として漕いでらっしゃいます。
……嬉々として漕いでいたのは、肇なのか中井貴一さん本人なのか(笑)
台車の両脇に自転車をくっ付けたような、本当にシンプルな構造なのですが……肇ならずとも乗ってみたいですよ、コレ。
廃線跡を利用した鉄道公園なんてのが全国あちこちにあり、中には手漕ぎトロッコに乗れる場所なんかもありますが、手漕ぎトロッコよりはコチラの方が人気出そうなんですけどね。動かすのも運転するのも、手漕ぎトロッコよりは楽そうだし。何せ元は自転車ですもの。
一畑電車さん、沿線のどこかに鉄道公園作って、コレに乗らせてくれないですかね?
おぉ! JR大社線跡!! 
旧大社駅の構内には、まだ一部に線路が残されてるから、そこを鉄道公園化してくれればいいんだ。
雨ざらしにされたD51機関車をポツンと置いとくよりは、なんぼか利用価値があると思うんだけど、どうだろう?

――て、大社線跡を走らせる時点で、一畑電車とは関係なくなってる点はどう説明する?(笑)

続くコーナーでは、今まで使用されてきた列車のヘッドマーク、電車運転の文字通り「鍵」となるマスターコントローラーのレバー、単線ならではのタブレット(通標)、過去発売されてきた記念キップなどなど、鉄道マニア垂涎の――いえ、マニアならずともワクワクが収まらなくなる品物の数々が所狭しと展示されています。
中には、滅多に見られない(見ようと思っても見られない)パンタグラフやヘッドライト、列車集中制御装置(CTC)の制御盤なども、見ようによっちゃ無造作に展示されています。
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さすが八百萬の神々おわします出雲大社までを結ぶ一畑電車、記念キップも絵馬を象ってたりします。半券を切り取ると、実際に絵馬として奉納できる仕組みになっているんだとか。
そして、ただ物品が展示されるだけじゃなく、スライドやフィルム映像等を交えて、当時の情景が紹介されています。
(映像コーナーの席が、実際の車両で使われてたクロスシートだったりと、ニクい演出もされていますが)

画像さて。
今回の展示物を見て、ワタクシも初めて知ったのですが――もっとも、山陰出身の方、山陰にずっとお住まいの方にとっては常識なのでしょうが。
かつて、一畑電鉄では『一畑パーク』という遊園地を経営していました。
昭和30年代、日本の高度成長に伴なう〝国民総レジャー化〟に合わせるように、全国のあちこちで動物園や遊園地が相次いで開園しました。ここ山陰も例外ではなく、昭和36(1961)年に一畑薬師の傍らに山陰随一の遊園地『一畑パーク』が開園しました。併せて、戦時中の不要不急路線認定により撤去された一畑口-一畑間の廃線跡に、有料道路も敷設されました。
山陰随一を謳うだけあって、1万3千坪以上の広大な敷地には遊具施設だけではなく、動物園も併設されていて、トラやゾウなど62種類300頭以上の動物たちが、訪れる子どもたちを楽しませていました。
「ニューギニア博」や「菊人形展」などのアトラクションも頻繁に催され、家族連れはモチロンの事、小中学校の遠足、町内会や会社の慰安旅行などで賑わいました。子どもから大人まで楽しめる観光地として人気を集め、ピーク時には年間約25万人もの入園客を迎え入れたといいます。
山陰に住む人たちにとっては、まさに「夢の国」だったんでしょうね。
そんな一畑パークも、レジャーの多様化という波に飲まれて年々入園客が減少し、昭和54(1979)年に惜しまれつつ閉園。わずか18年の歴史を閉じたのでした。
……そんな遊戯施設があったんですねぇ~。はぁ~、知らんかったわ。
今ではすっかり跡形もなくなり、山上の自然公園となっているようですが。
コーナーでは、一畑パークの懐かしい光景を紹介するとともに、当時活躍した電化製品なども展示されています。
脚付きテレビ、真空管ラジオ、8ミリ映写機、などなど。
昔懐かしい自動編み機を見て「あぁ。そういえば昔、母親にコレでセーターとか編んでもらったなぁ~」とか、一眼レフ銀塩カメラを見て「うわ! コレなんかがもう骨董品入りかよ」とショックを受けたり。
だって、フジノンのハーフサイズカメラとかならまだしも、キヤノンAE-1やオリンパスOM-10、ミノルタX-7とかの、ついこの間まで自分や家族・友人が愛用してた自慢の名機が、今じゃすっかりアンティーク扱いなんですから。
今の君はピカピカに光ってないんですね(笑)
まぁ、今やデジカメ全盛期、スタンダードになってしまってますからね。時流の流れからしたら、致し方ない事なんでしょうね。そのうち、デジカメもアンティークになってしまうんでしょうか。その時、スタンダードになっているのはどんなカメラなんでしょうね。
画像コレコレ!
この噴水式ジュース販売機。
いやぁ~、懐かしいですねぇ~。
ワタクシの記憶の中では、確かデパートの階段の踊り場なんかに設置してあって、もうちょっと形も違いましたけど。
確か一杯10円くらいで、自分で備え付けの紙コップを注ぎ口に置くんだったような――イメージは、図書館なんかにあるティーサーバーですね。
それでも、ドームの中でシャワシャワと涌くジュースは、今でも記憶の中で涌き続け、それを思い出す度にヨダレが……(笑)
ま、中身は果汁がどんだけ入っていたか知りませんが。果汁より人工着色料の比率の方が多かったり(爆) 
いや、それにしても、視覚に訴えるってのは、ある意味効果バツグンであり、ある意味残酷ですねぇ。
う~ん……いつの間に、どこへ消えて行ったんでしょうねぇ~?
こういった見せ方って、今でも十分通用するんじゃないですか? 何もかもがデジタルな世界ですが、こういった思いっきりアナログな物も、かえって新鮮でいいんじゃないかという気がしますよ。
こういった自販機や、スーパーの店先に置いてあった「わたあめ製造機」なんか、今の子供らでもワクワクドキドキしながら、熱中しちゃうんじゃないかと思うんですけど、どうでしょう?

最後のコーナーは、映画『RAILWAYS』のPRです。
撮影風景の写真パネル展示や、中井貴一さんと三浦貴大さんが劇中着用していた制服、出雲大社前駅のジオラマ模型などが展示され、映画のPRビデオがモニターに映し出されています。
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映画公開を機に、俄然注目を浴びる「バタデン」こと一畑電車。馴れ親しんだ人には懐かしく、そうじゃない人には非常に新鮮に映る特別展じゃないかと思います。
鉄道好きな人も、あまり興味ない人も、この展示は必見です!

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