名古屋めしの逆襲

皆さまご存知の通り、名古屋には〝名古屋めし〟と呼ばれるほど、独特の食文化がございます。
味噌カツに代表される、米麹をまったく使わず豆だけで作る独特の赤味噌「八丁味噌」を使った味噌料理。外身はカリカリ、中はふわふわ、〝カリふわ〟に焼き上げたうなぎの蒲焼を短冊切りにしたものをご飯に乗せ、薬味や出汁などで味の変化を楽しむ「櫃まぶし」などなど、名古屋圏ならではの美味の数々。
かと思えば、他県・他地方の人からしたら「名古屋人の舌はバカ舌か!?」(名古屋の皆さん、スイマセンっ!)と思えるほどの甘々メニューの数々。
そのギャップまでも楽しんでしまおうというのか、最近とみに〝名古屋めし〟が大人気です。
ハイ。ご多分に漏れず、僕らの旅の目的の何割かも、この〝名古屋めし〟を堪能する事にありました。

画像まずは初日の朝食です。
僕はネットカフェで軽くトーストなんぞを取りましたが、友人は何も食べていないそうなので、名古屋名物・喫茶店のモーニングをいただく事に。
で、どうせ行くなら、という事で、かの有名な『コメダ珈琲店』へ。
何が有名なのかというと、「シロノワール」という……軽食なのか? デザートなのか?です。
デニッシュパンの上にソフトクリームとチェリーが乗っていて、この上に、お好みでメープルシロップをかけていただく訳です。一応はデザートの部類に入るらしいですよ。語源には諸説あって、一応有力なのが、ソフトクリームの〝白〟とデニッシュパンの〝ノワール(黒)〟を合わせたものだとか。
なんで〝ノワール〟だけフランス語なんだよ(笑)
友人は、コーヒーにモーニングセットを。
つーかですね、普通に「モーニングは付けますか?」とか訊かれると、〝名古屋めし〟について何の知識もない人なら、思わず「はい……?」と訊き返してしまいますよ。
普通、コーヒーとモーニングセットって、別物のメニューですよね。ところが、ここ名古屋ではモーニングは〝飲み物にサービスとして付く物〟なんですねぇ。それが名古屋スタイル。
ま、モーニングと云ったって、ホント簡単な、トーストと茹で玉子くらいなもんですけど。
当然、お勘定は飲み物代だけ。だってサービス品なんですもの――て、そんなにタダが嬉しいか(笑)
画像僕はというと、せっかくコメダ珈琲に来たんだもの、コレ頼まなきゃってんで、コーヒーと……さすがに「シロノワール」丸々1個食べたんじゃ、そりゃ甘々だろうってんで「ミニシロノワール」にしたんですが……それでも直径9㎝。その上にソフトクリームがこんもりと。
何考えてんだよ名古屋人(笑)
見た目にインパクト強烈ですよ。「コイツぁ手強いぜ」って雰囲気を、半径10㎞四方に漂わせてますよ。
僕、コレってソフトクリームじゃなくてホイップクリームだと思ってたんですよ。それでも十分甘そうですけどね。
ところがクリームがどんどん溶けてく。まさか、と思って舐めてみると「ん! こりゃバニラアイスだ!!」
ヤバいですよ。ただでさえ甘いソフトクリームの上に、たっぷりとメープルシロップをかけてしまいましたよ。僕、甘い物は嫌いじゃないけど、コレはどぉだろぉ……?
いや、食べますよ。頼んだのは僕ですから。ただ……さすがに腰が引けるのは何故なんでしょう?(笑)
だからといって、このまま見ててもアイスはどんどん溶けてって、それをデニッシュがたっぷり吸い込んでく訳です。それがまた醍醐味らしいですけど。
意を決して(爆)おそるおそる一口。
甘ァ―――いッ!!(by スピードワゴン井戸田 名古屋だけに)
あにょねぇ、そよ風が……
そんな震え上がるようなベタ甘ぶりではないにせよ、それでも「さぁ、血糖値上げてこう! 張り切ってどうぞ!!」てな意気込みは十分感じられますよ。
血糖値赤マル急上昇中。もうすぐトップ10入り。
う~ん……ひつまぶしとか、きしめんとか、ウマい物はいっぱいあるのに、なんでこういう取り合わせを思い付くだろうか。
名古屋めし、おそるべし。

画像お昼は、矢場町の『矢場とん』本店さんです。やっぱり味噌カツは外せないですもんねぇ。
『矢場とん』さん、去年で創業60周年だったんですねぇ。て事は、戦後間もなくの昭和22年から? 随分昔からやってるんだぁ~……
お店は2年前と変わらず大盛況でした。さすが土日のお昼時、列を成してましたねぇ。ありつくまで30分くらいかかりましたでしょうか。外で15分、店内で15分、てな感じ。
1階のカウンター席は一人客優先でして、我々のような二人連れかそれ以上のグループは、自動的に上階の席に通されます。行き違うのがやっとの階段で、席が空くまで待たされるのですが、その間にメニューが回ってきて注文が取られます。効率がいいと云うべきなのかどうなのか……
まぁ、お陰で席に案内されてから、そう待つ事もなく注文の品が届くんで、一応「効率がいい」と受け取っときます。
店内にはエレベーターも設置されてるんですが、まったく使われてません。だって、エレベーターの際々までテーブルが来てるんですもの。これって……消防法的に問題ないの?
階段は確保されてるから、いいのか。どうせ火事になったら、エレベーターなんか使えないしね。
僕も彼も、名物「わらじとんかつ定食」を注文。僕は普通盛り。彼は大盛り。
その大盛りの量たるや……
画像こぉですもの。
山ですもの。
「テメェ、フザけてんのか!?」てなもんです。
見る人が見たら、「俺ァ仏様じゃねぇ!!」と怒り狂う事しきりです。
まぁ、カツの量が量ですから(ほぼ2枚分)、それに見合うご飯の量となると、こうなってしまうと、彼は云ってましたが。
僕はというと、ご飯の消費量を抑えるべく、カツ、カツ、めし、カツ、汁、カツ、キャベツ、カツ……そしてエンドレス(笑)
おいしくいただきました。味はまったく変わってませんでした――て、60年の伝統の味が、たった2年の間にテッコロ変わられてたんじゃ、たまったもんじゃないですけどね。
味は、味噌ダレとソースのどちらかを選ぶんですが、両方一度に味わえるハーフも選べます。どうせなら両方味わいたいんで、ハーフにしたんですが、僕はやっぱり味噌ダレの方が好みでしたね。再確認。
つーかソース味って、わりと味の想像が出来ちゃうんで、あまりオドロキがないんでしょうね。人間って、常に意外性を求めてるのかも。だから、普段味わった事のない味に行き当たると、それだけで感動して、虜になっちゃうんでしょうね。
もっとも、あまりに意外すぎて、馴れ親しんだ味の方が安心するパターンもありますけど。

画像夜は、『いば昇』で櫃まぶしをいただきます。
地下鉄栄駅下車。錦通からテレビ塔側に1本行った道を、名古屋駅方面に向かいます。ワシントンホテルのちょっと手前に、昔ながらの店構えの『いば昇』があります。
……あれ? こんな方だったっけ? 確か、マルエツデパート裏の路地をちょっと入った先じゃなかったっけ?
言っちゃあ悪いけど、場末の大衆食堂みたいな店構えだったと記憶してたんだけど……はれ? 移転したかい?
でも、シメを煎茶で食べるのは同じだな。それも待つ間に飲んでるお茶で食べるのは。
疑問の数々を、おそるおそる尋ねてみました。
「いえ、ウチは昔からずっと錦でやっておりますが」
「でも、2年くらい前に、栄の方で細い路地を入ってった記憶があるんですが……?」
「あぁ、向こうにも『いば昇』という店があるみたいですね」
「こちらとは姉妹店か何かで?」
「いえ。まったく関係がございません」
……な、何ですとぉ!?
どうやら名古屋には、『いば昇』という名前の店は2軒あるようです。
気になって、宿に戻ってからネットで調べてみました。
確かに『いば昇』という店は2軒あって、厳密には栄の方は『いば昇本店』と云うらしいです。但し、『いば昇』と『いば昇本店』の関係は、まったくないとの事。
何だ何だ何だ。
おそるべし、名古屋めしの罠。

画像2日目のお昼です――といっても、名古屋港で遊び過ぎたお陰で、3時にもなっちゃいましたけど。昼飯っつーより、ほとんど〝おやつ〟ですな。
本当は「昼は『あつた蓬莱軒』でひつまぶしを」と思ってたんですが、時間的に昼の部は終わっちゃってます。そんな訳で昼夜コートチェンジ。
栄にある『山本屋総本家』本店で味噌煮込うどんをいただきます。
この『山本屋』を名乗っている店も、2軒どころか3軒(『山本屋総本家』と『山本屋本店』と『大久手 山本屋』)もあるんですって。
こちらの場合も、お互いは無関係。どころか、お互いを強くライバル視しちゃってます。特に『本店』側は、HPに「まぎらわしい名前のお店がございます」と表記してまでの対決姿勢。
聞くところに因れば、『総本家』に出入りしていた業者が始めたのが『本店』(これは諸説紛々)、『総本家』から暖簾分けしたのが『大久手』なんだそう。にもかかわらず「ウチこそが元祖『山本屋』だ」を標榜して、『総本家』と『本店』の間では裁判沙汰にまでなったとか。
(結果は、お互い名古屋で認知されてる事や、争っても不毛だって事で、提訴は取り下げられたそうです)
名古屋の人たちの中でも、〝総本家派〟と〝本店派〟に二分されてるみたいです。ただ、ガイドブックで紹介されたり、『山本屋』でネット検索すると、ヒット数は圧倒的に『総本家』の方が多いです。昔ながらの伝統の味を堪能したければ『総本家』の方だと。
……ど~でもええやん、美味ければ。
つーか、僕は『山本屋総本家』でしか食べた事がないので、どっちがどうとは言えません。
画像注文の際、必ず「そばアレルギーの方はおられますか?」と聞かれます。何でも打ち粉には蕎麦粉を使っているそうで。
2年前に来た時は親子煮込みにしたんですが、今回はシンプルな味噌煮込みうどんを。もちろんライスも付けて。友人は味噌煮込みうどんの大盛り、ライスなし。
八丁味噌仕立てのスープに、具材は長葱、白菜、短冊切りにした油揚げ。彩りにカマボコを添えて。
麺は固めの――つーか、固いです。本当に煮えてるのか心配になるくらい。でも、しっかりコシがあるんです。讃岐うどんとはまた違うコシ。パスタで云えばアルデンテの一歩手前。
彼は「こんなに固いの?」と驚いてました。やっぱりそういう反応になるよねぇ。
ご飯にはスープをかけて。
いいですねぇ、この絶妙な塩加減と後味に残る苦味。この苦味に慣れないうちは、「何だ、この苦さは!?」となってしまいますが、一度味わったらクセになると申しますか、この苦味こそが八丁味噌独特の風味なんですよねぇ。
満足!

この旅のシメは、あつた蓬莱軒の本店『蓬莱陣屋』でひつまぶしをいただきます。
2年前は熱田神宮南門そばにある神宮店でいただきましたが、今回は念願叶って本店でいただく事に。
二日続けて夜はひつまぶし。贅沢し過ぎですか?
画像地下鉄名城線伝馬町駅を出ると、そこは国道1号線。神宮南交差点に架かる歩道橋を渡って、国道247号線沿いに南下、名鉄線を跨ぐ内田橋陸橋の手前に『蓬莱陣屋』はあります。
この日は満席でして(いつもか?)、10分ほど待たされた後、2階の大広間に通されました。かつて織田信長が桶狭間の戦いに赴く際、陣を張った跡に建てられた店。庭先に生い茂る松や古い日本家屋の店構えが、何とも云えない雰囲気を醸し出しています。
自分が御大尽か文豪にでもなったような気持ちに酔いしれているうち、やって来ました「ひつまぶし」。『蓬莱軒』のは〝櫃まぶし〟じゃなく〝ひつまぶし〟なんです。商標登録取っちゃってますから。
お櫃の蓋を取ると、ふわっと上がる湯気の向こうに整然と並ぶ鰻。
まずはそのままで一口。外はカリッとしてて、中はふわっと。まさに〝カリふわ〟です。『いば昇』よりもホクホク感のある身。香ばしいカリッと感は『いば昇』の方が上かもしれませんが、身のホクホク感は断然『蓬莱軒』ですね。
二杯目は薬味を入れて。『いば昇』は白葱でしたが、『蓬莱軒』では万能葱に刻み海苔。この海苔、もしかしたら三杯目用かもしれませんが、入れちゃいます。また味がガラッと変わるんですよね。
断然違うのが三杯目。『いば昇』ではお茶をかけましたが、『蓬莱軒』では特製のダシをかけます。このダシがまた鰻の脂のクドさをスッと和らげ、全体の味をギュッと引き締めてくれます。アクセントの山葵もまたヨシ。
これこれ、これですよ。この味が食べたかったんです。
彼も「昨日の店と、味が全然違うね」と驚いてました。
僕、『蓬莱軒』の味の方が好きですね。彼は……どっちが好みだったんでしょう。
画像




今回もまた〝名古屋めし〟を堪能いたしました。ヤラレまくりました。もはや「虜」といっても過言じゃないでしょう。
いつの日か、またヤラレに参ります事をお約束いたします。

……あ。また、きしめん食い忘れた……

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