四国三郎に会いに行く

といっても、別に親戚のおじさんの話じゃありませんよ(笑)
霊峰・石鎚山に源を発し、四国の屋根・四国山地に沿うように流れ、紀伊水道へと注ぐ吉野川の事であります。
画像日本三大河川の一つである吉野川は、利根川が「坂東太郎」、筑後川が「筑紫次郎」と呼ばれてきたように、親しみと畏敬の念を込めて「四国三郎」と呼ばれてきました。
道路事情がまだ発達していなかった時代の交通の要であり、生活の支えでもあり、たとえ幾度もの氾濫でこっぴどい目に遭わされようとも、流域に住む人々の暮らしにとっては切っても切れない大切な川だったのです。
その吉野川と並行するように走るのが、徳島と阿波池田を結ぶJR徳島線です。「よしの川ブルーライン」なんて愛称も付いてます。
これは乗りに行かずばなるまいて。


07:53 高松発 琴平行き普通列車に乗車します。
おなじみの瀬戸内沿岸とは多度津でお別れ。ここからは土讃線で内陸へ。
08:57 琴平着 ここで09:15発の阿波池田行きに乗り換えます。
ホームの梁を見上げて初めて気づいた事なんですが、屋根飾りに金刀比羅宮の印であるマル金マークが。
さすがこんぴらさんの門前町・琴平。細かい仕事してますねぇ~。
つか、こんなの誰も気づかんて!
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琴平を過ぎると、車窓を流れる風景は、どんどん〝山〟の様相を見せてきます。
石鎚山系瓶ヶ森を源流とする吉野川は、大きくうねりながら、奇岩立ち並ぶ大歩危・小歩危の急流を生み、上流らしい切り立った渓谷を形成し、やがて池田の街を大きく取り巻くように流れ込むと、途端に中流域の穏やかな表情で、紀伊水道目指して悠々と流れてゆきます。
そう。ここ池田は、吉野川がその表情をガラリと変える地点なのです。

10:00 阿波池田着
阿波というと、どうしても藍染にばかり目をとられがちですが、なかなどうして阿波徳島藩、知的であります。領内を大きく流れる吉野川を利用して、藩の産業振興に努めていました。
下流域(地名にも残る藍住町一帯)では藍染製品を、脇町を中心とした中流域では原料となる藍草の栽培と共に、剣山一帯から運び出される良質の材木。
そして、池田一帯の上流域では、たばこの栽培。

           花は霧島 煙草は国分
              燃えて上がるは オハラハー 桜島

と「おはら節」にも唄われるように、煙草というと鹿児島の国分地方がすぐに頭に浮かびますが、阿波煙草は刻み煙草の中でも最高級品とされ、名だたる歌舞伎役者の中には、わざわざ「阿波煙草を」と指名してまで買い求める程だったそうです。
徳川の御世、嗜好品であるとの理由で御禁制とされた(栽培すら禁じられた)煙草ですが、阿波徳島藩の庇護の下で大いに振興され、阿波徳島藩の財政を支える貴重な財源となっていったのです。
時代は明治を迎え、藩営から官営へと移り、幕末に全国へと広がった販路が確立された煙草製造業者たちは、この街を大いに賑わせたそうです。
例えばここで生産された煙草が、大阪から北前船で北海道へと運ばれ、網走監獄の囚人や
移民した人々の元に届けられた事は容易に想像がつきます。現に、当時の売買帳には、遠く小樽や網走などの地名が残されていました。
戦後も専売公社最大の工場として、往年の方々には懐かしい『わかば』や皆様おなじみの『ハイライト』『マイルドセブン』を生産していました。
栄耀栄華を極めた煙草製造業者も、昨今の禁煙ブームと工場閉鎖で激減し、今では3軒を残すまでになってしまったそうです。
そんな池田町(現・三好市池田)の繁栄の歴史を紹介してるのが、『阿波池田うだつの家』です。
駅前から「銀座通り」というアーケード街を抜けて、徒歩約10分。うだつも立派な建物が見えてきます。幕末から明治にかけてたばこ産業によって栄えた象徴として、母屋や離れ・たばこ製造作業場などが当時のまま残る、煙草製造業者の旧宅を無料公開しています。
特に作業場には、たばこ産業にかかわる各種資料を展示して、『たばこ資料館』として公開しています。こちらは有料(入場料300円)。水曜定休。
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館内をひょいと覗いてみましたが、受付に誰もいません。すると近所のおじさんらしい人が「ご覧になりますか?」と、やおら受付の準備を始めました。
エッ!? おじさん、係の人なん?
何だか狐につままれた気がしながら入場料を払うと、今度は「それじゃ御案内しますね」と。
エェッ? えぇ~っ!?
いきなりワンダーランド。おじさん、戸惑う僕にはお構いナシに展示物の説明を続けて行きます。もぉ「ほぉ~……はぁ~、そぉなんですかぁ~……」としか答えようがない訳ですよ。一通り説明を終えたら「では、あとはごゆっくり」とだけ言い残して、すたすた去ってゆくおじさん。
……ぽっつ~ん。
……まぁ……まぁまぁまぁ、いいですけどね。これが普通なんですから(笑)
僕自身たばこは吸わないですし、興味もないんですが、それでもおじさんの説明のおかげで、思わず「ふ~ん。へ~え」と感心させられる事ばかりでした。
何より驚いたのは、池田町全体として『眞鶴』という単一銘柄の刻みたばこを製造していた事でした。戦後の専売公社によるものなら「ナルホドね」と理解できるものの、戦前からそういうシステムが確立されていたのは、非常に興味深いものでしたよ。これが酒屋や醤油屋なら、各メーカー毎に銘柄が違うのに、たばこはそうじゃなかったんですね。他の産地との競争に勝つ為に生まれた戦略なんでしょうか……「伯方の塩」みたいなモン?
あと、「たばこ栽培は九州だけじゃない」てのは目からウロコでしたね。

『うだつの家』に面した本町筋には、うだつの残る家々が何軒か見られます。
うだつ(梲とも卯建とも書きます)というのは、町屋の妻壁の横に張り出した袖壁の事で、火災を一番に怖れた商家が、隣家からの(あるいは隣家への)類焼を防ぐ為に設えた防火壁です。それがいつしか富を現す象徴となり、防火よりも装飾の意味に変わって行きました。商家はお互いの富を競うように、大きなうだつを上げた立派な家を建てるようになりました。
「うだつがあがらない」という諺は、ここから来ているのです。
さて、徳島でうだつというと、どちらかというと穴吹や脇町の方が有名です。これは見ずにはおかれないでしょう。
そんな訳で、脇町のうだつを堪能する為、11:40発の徳島行き普通列車で阿波池田を出発します。
途中通過する貞光は、四国第二峰・剣山の登山口です。ホームにはそれを表す石碑も建っています。
12:33 穴吹着 すぐさま12:36発の「道の駅・西村行き」バスに乗ります。この間3分(汗)
時間的に厳しい方は、11:16阿波池田発の特急剣山6号に乗るか(11:49着)、駅前からタクシーで移動しましょう。

画像バスで移動する事6分、「パルシー前」下車。大谷川にかかる稲田橋を渡って少し行くと、道の駅「藍ランドうだつ」があります。駐車場から続く小さな路地を抜けると、突然、大正時代にタイムスリップしたかのような街並に突き当たります。この南町沿いの街並が、脇町が誇る『うだつのある町並み』です。
かつて藍の集積所として繁栄した脇町は、多くの藍商人で賑っていました。藍商人たちは、藍染の原料となる藍草を載せた船で吉野川を下り、下流の藍染職人へと売り捌いていました。
大正期に入り、徳島と阿波池田を結ぶ鉄道が開通し、物資流通の担い手が水運から陸運に取って代わった事で、時代から取り残された脇町は、まるでそこだけ時間が止まったように、江戸時代の佇まいを今に残しています。
画像当時の藍商の繁栄ぶりを知る上で、道の駅に直結してる吉田家住宅『藍商佐直』は見逃せません。入場料500円。
何せ母屋がスゴイです。1階・2階併せて全部で27室。まるで老舗旅館の中を歩いているようで、一部屋一部屋見て回ってたら迷っちゃいそうです。2階大広間のベランダから遠く陽光にきらめく吉野川を見ていると、時が経つのも忘れてしまいそうです。
あぁ、こんな部屋で一泊してみたい(笑)
敷地内にある蔵は改装され、吉田家の豪商ぶりを紹介する品々が展示されています。また、この脇町一帯は四神相応の考えに基づいて築かれた城下町という事で(小さくてもお城が建ってたんですよ)、ホール奥には地元出身の著名画家による四神(玄武・朱雀・白虎・青龍)の絵が展示されています。4つの絵に囲まれていると、気分は広大な銀河空間。
2階はシアターホールになっていて、かつての脇町の繁栄ぶりを映像で紹介しています。残念ながら、この日は調整中で見る事が出来ませんでしたけど。
画像通りの突き当たり、大谷川の向こう岸には、昭和の馨り溢れる脇町劇場「オデオン座」が建っています。
山田洋二監督・西田敏行主演の映画『虹をつかむ男』の舞台になった事でも有名なこの脇町劇場ですが、琴平の金丸座や内子の内子座のような芝居小屋なんですね。モザイク状に嵌められたステンドグラスに代表される外観は非常にモダンで、入口の切符売場を見る限り、非常に映画館チックな印象を受けるんですが、回り舞台や花道なんかが設えてあるのを見ると、「あぁ、ここは芝居小屋なんだ」と改めて思わされます。
主体は大衆演劇などのようですが、たまには映画上映もあるようですよ。
和と洋が同居し、通りを歩いただけでもその繁栄ぶりが肌で感じ取れる脇町。鉄道が開通した事で、街道の主役からいつの間にか降板させられていた事に気づいた人々の驚きと落胆ぶりは、いかばかりだったんでしょうね。
そんな事にはお構いなしに、吉野川は滔々と、そして悠々と今も流れています。すぐそこの堤防を上ってごらんなさい。その流れを見ていると、小っぽけな悩みなど吹き飛んでしまいますよ。それはもう、悩んでる事自体がバカらしく思えるくらいに。
……ん~、なんとなく故郷の十勝川チックでもありますなぁ~(笑)
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道の駅停留所から、13:35発の「穴吹行き」バスで穴吹駅前に戻ります。バス便が非常に少ない(1日6便。しかも13:35の便を逃したら、17:15まで待たねばなりません)ので御注意を。
……まぁ、健脚なら歩いてもいいんですけどね。1時間もあれば着くでしょう。
14:00 穴吹始発の普通列車で徳島へと向かいます。徳島には15:03着。
徳島といったら徳島ラーメンでしょう――という訳で、徳島ラーメンを全国的に有名にした店『いのたに』を目指します。
実は讃岐屋、徳島ラーメンには過去痛い目に遭わされています。
巷で徳島ラーメンが結構有名になってきた頃、「徳島に行きゃ、簡単に徳島ラーメンにありつけんだろ」的な気持ちで訪れた讃岐屋、駅前の観光案内所で「この近くで徳島ラーメンが食べれる店ってありますか?」と尋ねたところ、「そんな店はありません」と返答されました。「ウソだ。そんなはずはない。こんなに有名になってんだぞ?」と駅前を探索するも、どこにも〝徳島ラーメン〟と書かれた幟や看板を見ません。
失意のまま高松へ帰る事になった讃岐屋、後日、徳島ラーメンの店は駅前より国道沿いに多い事、地元では〝徳島ラーメン〟なんて呼ばなくて、普通に〝中華そば〟と呼ばれている事、等々を知りました。そぉいや確かに〝中華そば〟の看板や幟をわんさか見たわさ。
んな訳で、今回はリベンジであります――そんなエラそうなもんかよ(笑)
駅前の道をまっすぐ、阿波踊り会館を目指して歩きます。
阿波踊り会館は、徳島が世界に誇る「阿波踊り」について「阿波踊りミュージアム」(入場料300円)で学んだり、自ら体験する事(講習料500円)が出来ます。また、徳島市内を一望できる眉山に登るロープウェイ(片道600円、往復1,000円)の出発点でもあります。
が、今回は徳島ラーメンを食べるのが目的ですから(結局、喰い意地かい!)、脇目も振らず、阿波踊り会館前の交差点を右にまっすぐ向かいます。
途中、天寿山東光寺というお寺の横を通ります。このお寺に隣接する墓地には、あの伝説の絵師・東洲斎写楽のお墓があると伝えられています。
ちょっと覗いてみると、ナルホドそれらしきお墓の隣に、壷を模した碑があり、そこには確かに〝東洲斎写楽〟と刻銘してあります。
ただ……これが本物なのか、どうして写楽の墓がここ徳島にあるのか、パッと見だけじゃ全然わからず仕舞いでしたけど。
東光寺からさらに先を5分ほど進みますと、赤い看板に〝中華そば〟の文字も鮮やかな店が見えてきます。ここが目指す『いのたに本店』です。
思わず「エッ!? ここが?」と思うような店構えでもあり、「さすが本家」と思えるような店構えでもあり――どっちやねん(笑)
店に入ると、真ん中に食券の自販機があり、両脇にコの字形のカウンターが並びます。どことなくセルフの讃岐うどん屋チック。
中華そば450円。大盛50円増。肉入り100円増。徳島ラーメンの特徴である生卵は別売50円。典型的な徳島ラーメンを食べようと思ったら、〆て600円也。
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コクのある醤油焦がしスープ。
甘辛く煮付けられた豚バラ肉。
もやし・メンマ・刻みネギが彩りを添える。
そして極細のストレート麺。
美味!
腹の空き具合と相談して、普通盛りにして生卵はパスしましたが、「これぞ徳島ラーメンっ!」て感じでした――いや、本物の徳島ラーメンがどんなものか詳しく知ってる訳じゃないですけど(笑)
気持ちいいくらいツルッと入り、まさに一気食いでしたな。
……しまった、大盛にしとくんだった。

幸せな気分に浸りながら、徳島16:30発の特急うずしお22号で帰路につきます。夕暮れ迫る瀬戸内沿岸をひた走り、ディーゼルの振動も心地よく、いつしか白河夜船。あやうくそのまま岡山まで運ばれるトコでした (^_^;)
丸一日の気ままなのらり旅でしたが――うん、なかなか面白かったぞ。阿波徳島の知られざる一面を知る事も出来たし、何より〝四国三郎〟は雄大だったし。
余は満足じゃ。褒めてつかわす(爆)


今回僕が使ったのは、『徳島・香川フリーきっぷ』というもの。僕が回ったエリアに加えて、土讃線は大歩危まで、そして鳴門線で渦潮渦巻く鳴門まで足を伸ばせて、2日間有効の6,000円。特急列車の自由席にも乗れるので、旅の自由度が膨らみますよ。
青春18きっぷの旅もいいですけど、たまにはこんな方法もいかがですか?
以上、JR四国からのお知らせでした(笑)

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  • 四国の車窓から・1

    Excerpt: 阿波池田行きの特急『剣山3号』で、吉野川沿いを走ってます。 徳島-阿波池田間を結ぶ徳島線は、〝よしの川ブルーライン〟という愛称が付いてます――て、確か以前にも紹介しましたよね。 山瀬駅を過ぎた辺り.. Weblog: 讃岐屋が行くわよっ☆ racked: 2007-04-02 16:11